仙台高等裁判所 昭和25年(う)370号 判決 1950年7月20日
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
判決要旨
被告人が十八歳に満たない者であるなら縦令それが被告人自身の詐称に基くものであるとしても家庭裁判所に送致することなく直ちに公訴を提起したその手続は少年法所定の法条に違反し且その違法は少年法上認められた少年の重大な利益を失わしめることとなるから無効である。
理由
少年の刑事事件については検察官は常に必ず家庭裁判所に之を送致し家庭裁判所の調査を受けその調査の結果再び家庭裁判所から送致されたとき始めて公訴提起の措置をとりうることとし、家庭裁判所の調査を経ないまゝでの公訴提起を是認していないことは少年法第四二条第四五条第二三条第二〇条等の規定に徴し明かであるところ、本件について之を見るに原判決言渡後原裁判所に提出された八戸拘置支所長の作成に係る偽名者通報についてと題する書面、当裁判所は提出された中澤學作成の身元引受書、同人から当審国選弁護人南出一雄に充てた書状、並びに北海道花咲郡歯舞村長作成の戸籍謄本の各記載を総合すると、被告人は右中澤學の長女でその真実の氏名は中澤カチ子、生年月日は昭和九年一月五日であつて昭和二五年一月二六日の本件公訴提起当時はいまだ満一八歳に達していない少年であることが認められる、しかも記録によれば被告人は警察での取調以来原判決が言渡されるまで一貫してその氏名生年月日等を原判決が表示しているとおり中澤和子昭和六年一一月六日生と詐称して取調を受けていた関係上原審検察官は本件を家庭裁判所に送致することなく直ちに公訴の提起をし、原審また被告人を成人としての通常の刑事訴訟手続によつて審理し有罪の言渡をしたことが認められるから縦令それが被告人自身の詐称に基くものであるとしても、その公訴提起の手続は少年法の前記各法条に違反し且その違法は少年法上認められた少年の重大な利益を失わしめることになるから無効であると解するのが相当である。